社会人になった自分は一年上の先輩社員とまだ開発中だったU12ブルーバードの排気系設計に従事しました。人一倍 優秀で破天荒キャラの先輩の元で、厳しく鍛えられる日々。
あとで考えればこの時の経験は自身の成長につながった貴重な期間だったのですが、時は昭和、今の基準からしたら理不尽な処遇の連続、毎晩夜遅くまでのサービス残業、時とすると徹夜仕事もしばしばな毎日にこんな仕事は嫌だっ!と反抗心を心に秘めつつ、上下関係なんてクソ喰らえっ!先輩にマジギレすることもあったり
先輩から見たら、まだ未熟で青二才で生意気なヤツだったと思います。
おおらかだった時代は過去のもの、設計の流れはコスト低減と消音性能最優先になっていました。自分は費用がかかっても動力性能のよい製品を生み出したいけれど、それは許されない環境で、現実と理想のギャップに悩んだりもしました。(経験を積んだあとからなら、コストの大切さもわかります。当時はまだまだひよっこでした)
コストや消音性能のしがらみにとらわれない理想の高性能マフラーを作りたくて、こっそり自分の考えるハイスペックモデルの図面を引いたことがありました。
当然、そんなものは製品化されるはずもないものだったのですが、ある時 先輩から「お前が考えていた高性能マフラーの図面を出せ!」と言われました。自分ではこっそりやっていたつもりでしたが、先輩にはお見通しだったようです。
量産採用されるはずもないマフラーをいったい、どうするのだろうか?と怪訝に思う自分。数十年も前のことでもう時効だと思いますが、ここでは書けない特別な用途で使うとのことで、本来 陽の目を見ることのないはずのそのスペシャルマフラーが、会社の試作部門で制作され、どこかで使われることになったのです。
まだ半人前の自分が考えたもので、世に出せるものではありません、そう言う自分に
お前はまだ半人前と言うけれど、俺の元で経験を積んだお前は、世間からみたら立派な排気系の専門家だっ、もっと自信を持て!
先輩はそんな言葉をかけてくれました。
ふだんは理不尽大魔王とも思えた先輩のひとことは、自分にとって大きな自信となりました。
えっ!そのマフラー、なにに使ったのかって? それは言えません(内緒です)
当時のモーレツ時代に反感を持っていた自分ですが、こんなエピソードもまだおおらかさの残っていた昭和ならではのことかもしれませんね。
そして時は流れて、いよいよ新型ブルーバードデビュー。新開発のフルタイム4WDシステム アテーサと新型エンジンを積んだブルーバードは、多くの人に支持され大ヒット。
この時 自分の手掛けた製品が世の中に出て、たくさんの人に評価されるよろこびを知り、この経験は一人前のエンジニアの仲間入りを実感した瞬間でした。